●【健康らいふ】過敏性腸症候群 ストレス社会に急増の便通異常
[産経新聞 2004年8月29日(日)]
■国立精神・神経センター国府台病院副院長 松枝啓氏
どこといって異常が見当たらないのに、下痢や便秘を繰り返し、 腹痛や不快感が治まらない。
そんな症状が延々と続く過敏性腸症候群(IBS)が、 最近急激に増えていることがわかった。
高度ストレス社会を反映して、不安と緊張にさいなまれた脳神経が、 腸の神経と相関して便通異常を引き起こすらしい。
健康を取り戻すには、どうしたらいいのか。
国立精神・神経センター国府台病院副院長の松枝啓(けい)氏に聞いた。(大串英明)
■脳腸相関のバランス崩れ悪循環
「IBS患者のドクターショッピングという言葉もあるくらいで、苦痛を訴えても、疾患は見つからない。寝ている間はケロリとしているかと思うと、襲ってくる下痢で会社に行くのもままならなくなる」。
松枝副院長は、IBSの不可解な症状をこう説明する。
≪欧米並み患者数≫ 五年前に、全国の大学病院、診療所の医師にアンケート調査したところ内科・外科含めた外来の受診患者の16%、うち会社員のみでは12%がIBS患者とわかった。
一方、二年前に行った消化器専門医の患者調査では31%にも上っていた。
IBSの疫学調査が進んでいる欧米では、全人口の10−20%、消化器疾患に絞ると20−50%となっており、いまや日本も欧米並みになったといえる。
松枝副院長によれば、IBSは、腸管の機能的疾患。腹痛や腹部不快感、膨満感などと並行して下痢や便秘症状が続くが、X線撮影や内視鏡検査では、がんや潰瘍(かいよう)などの器質的疾患が見つからず、ストレスによって症状が発現したり、増悪したりする病気。
通常の便秘・下痢との違いは、必ず腹痛などを伴い、 便通異常が少なくても三カ月以上の長期にわたる。
「食中毒のような下痢なら、就寝中もお構いなしだが、IBSだと、下痢や腹痛では寝てしまうと忘れてしまう。しかし“腹わたが煮え繰り返る”という言い方があるように、本人の苦痛感と同様、腸の運動にも異常が起きているのです」
やっかいなのは、QOL(クオリティー・オブ・ライフ、生活の質)が著しく落ちること。
四年前に、国際的なQOL尺度に従って疾患別の比較調査をしたところ、 IBS患者は、心の健康・活力・社会生活機能など、 精神的な状態を評価するすべての項目で糖尿病や透析を行っている患者よりも低い結果となった。
「センセーショナルなデータでした。機能的な病気の方が、器質的な病気より生活の質を落とすことがわかってきた。重病でなくても、本人の抱えている悩みは相当深い」
≪腸の運動で痛み≫ どんなメカニズムで引き起こされるのか。
ヒントは、脳腸相関にある。
松枝副院長は、「二十四時間、大腸の動きをセンサーで追跡実験したところ、寝てしまうと腸の動きがピタリと止まる。起きるとすぐ動き出す。脳波と一緒なのです」。
腸管に分布する神経細胞は、大脳に匹敵するほど、びっしり敷き詰められている。
人間の誕生から臓器の形成過程を見てみると、腸の神経管ができあがってから、大脳の神経管が張り巡らされ、ともに自律神経系でつながっている。
「脳の情報は腸管の神経層に伝わり、逆に腸管の情報も脳にインプットされるから問題なのです。いってみれば、腸も“考える臓器”なのです」(松枝副院長)
従って、ストレスや不安があると、脳からセロトニンなどの神経伝達物質が分泌され、痛覚に変位をきたすと同時に腸管も勝手に収縮や拡張を起こすようになる。
「これが痛さのもと。怖いのは、ちょっとした腸の運動でも痛みを感じるので、さらに不安が増し、便通が悪化するという悪循環が起きることなのです」。
まず、便通異常が機能的疾患か器質的疾患かしっかり見極めること。
IBSなら、脳腸相関の逆利用で、バランスが崩れた自律神経を運動で汗をかくなどしてリセットし、心身ともに健全な状態に戻すこと。
悪循環に陥ったら、人工繊維や腸の蠕動(ぜんどう)運動を止める薬、あるいは偽薬を使って一過性でも下痢や便秘を止め、“成功体験”を作ることが大事。
松枝副院長は「“衣食足りて、過敏性腸症候群を知る”。豊かな時代になればなるほど体も使わず、ストレス社会の度合いが増して、個々人が過度に感受性が強くなっている。ますますIBSが増えるだろうが、いたずらにストレスを抱えないように、私は生き方“75点主義”を唱えているのです」と話している。
【IBSの診断基準】
(1)夜間に腹痛や下痢で目が覚めない (2)血便がない (3)体重が減少しない (4)ストレスを強く感じると下痢や便秘がひどくなる。
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参考図書:
「過敏性腸症候群はここまで治る」
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